「退職するしか道がない」 福利厚生がおかしい、保険は?年金は?税金は? ライブハウス勤務 B子さんのケース

健康保険、年金、税金…。福利厚生がおかしい
「退職するしか道がない」
ライブハウス勤務 B子さんのケース

B子さん 年齢:22歳 職業;ライブハウススタッフ
大阪市在住 一人暮らし 芸大卒

皆さんの勤務する会社の中で、特に零細・中小企業の場合、厚生年金や保険、住民税などの天引きが無く、アレ?どうなってるんだろう?と思ったことがある方はいませんか?
将来はもちろん、今現在の生活にも関わる重要なことです。

ここでB子さんのケースをご紹介します。

音楽に夢中!仕事にしたい!

 

B子さんは、大阪市内の難波という賑やかなエリアのライブハウスに勤務しています。

B子さんの勤務する企業は、ライブハウスを東京に1店舗、大阪に1店舗、福岡にも1店舗、その他、飲食店を3店舗経営している企業で、従業員は社員が30人、アルバイトが40人の企業です。

B子さんは、中学3年生の時にあるバンドに夢中になった事がきっかけで、すっかり音楽ファンになりました。お父さんもビートルズやローリングストーンズといった洋楽のファンだった為、お父さんとは親友のようになり、よく、ドームコンサートや、有名なフェスなどに連れて行ってもらいました。
初めてフェスに行った時の興奮は今も忘れられません。それがきっかけで英語科目はクラストップになりました。

高校生になると、アコースティックギターを買ってもらい、少しづつ、自分で作曲めいた事もできるようになりました。高2の時、クラス替えがあり、同じ趣味の友人と出会いました。ピアノが弾ける彼女と、SNSを通じて知り合った他校のドラムの出来る男子生徒と、三人で、遂に念願のバンドを組むことが出来ました。

お父さんは大の音楽ファン。B子さんを応援してくれました

お母さんはあまり嬉しくなさそうでしたが、お父さんは、練習場所を探してくれたり、楽譜を買ってくれたり、と応援してくれました。
そして高校3年の夏休み。お父さんに、今後の進路の相談をし、芸大に行きたい、と打ち明けたのです。実はバンドのメンバーみんなで、同じ芸大を目指そう、と話しをしていました。お父さんは、「よし!やるならとことんやれ!プロになれ!」と芸大に行く事を応援してくれたのです。

そしてB子さん、バンドの他のメンバー全員が、無事に同じ芸大に入学する事が出来ました。
大学生活は、充実していました。同じような嗜好の人たちにたくさん出会い、色々な発見があり、刺激を受けました。バンド活動もベースのメンバーが加わり、たくさんのオーディションを受け、優勝こそ逃したものの、評価されたコンテストもありました。

そして3回生になり、いよいよ就職活動が始まりました。就職しても、バンドは続けよう!と、メンバーと約束し、B子さんは、活動が続けられるような仕事を探しました。

自由な時間が作れる会社で、出来れば、なるべく好きな音楽と関連が深い会社。給与は、一人暮らしが出来るくらいであればそこまで高給でなくてもいい。
休日休暇もあればあるほどいいけれど、それより、融通が効いて、バンド活動が継続できるよう、休みたい時に休めるほうがB子さんにとっての重要ポイントでした。
メンバーに意志確認をすると、皆も同じ意見でした。

メンバーで一番、成績優秀で、先輩にコネクションがあった、ドラムのD君が最初に都内のローカルテレビ局に内定をもらいました。次に親友の鍵盤担当C子さんが音楽スクール本部に。続けてベースのE君が大手レコード会社に、と、みんな次々と内定を貰いました。

B子さんは焦りました。自分だけ1社も内定を貰っていませんでした。就職セミナーを巡るばかりでした。

次々、内定が出るメンバー達。自分だけがとり残されていきました

そんな時、ふと、C子さんと一緒に行ったライブで、ある張り紙を見ました。

「スタッフ募集」。それがライブハウスを運営するC社でした。

このライブハウスは何度か訪れていて、雰囲気も、出演アーティストのラインナップもB子さんの好みでした。
後日、ライブハウスに電話し、面接へ。

あっという間に採用が決まりました。

遂に就職内定が出てホッとしたB子さん

就職が決まった事を、両親に報告すると、母親は「大学まで出て、そんな小さな会社に就職するなんて!」と怒っていました。父は何も言いませんでした。

張り紙を見て、あとの条件は、口頭で面接中に聞いたので、実際、給与の細かい内容や、条件など、正直、良く分かっていませんでしたし、書面での確認もありませんでした。

ただ、「就職が決まった」という事実が、B子さんの中でとてつもない安心感になりましたし、バンドの他のメンバーも、これで全員、内定が出て、今後は、自分達のお金で活動が続けられる、むしろ、これからが勝負だ!と奮起し、居酒屋で、決起集会をしました。

「店長になれば年金にも加入できるよ」??

翌年、3月、卒業を迎え、皆に別れの時が来ました。しかし、B子さんたちは、決して、夢を諦めず、頑張ろう、と言って、それぞれの場所に散って行きました。

いよいよ卒業。皆、別々の道へと散っていきました

4月。

B子さんの入社したC社でも、ささやかな入社式が行われました。
本社のある東京の渋谷で、B子さんと残り2名、合計3名が新卒入社でした。
他の2名は飲食部門の配属で、調理師が1名、運営が1名でした。

でも2名とも、このC社の社風が好きで、すぐに仲良くなり、グループLINEを作り、B子さんは大阪に戻り、翌日からライブハウスでの勤務が始まりました。

ライブハウスでの勤務は充実したものでした。自分は音作りには関わる専門家ではないけれど、PAさんや映像クリエイター、照明さんなど外注スタッフのベテランの方々と、どんなステージを作るのか、出演アーティスト達と打ち合わせをする時が最もやりがいを感じました。自分もバンドをやっているからこそ、アーティストの気持ちが分かるのです。

また、メールで出演を希望して連絡してくるアーティストたちと面談したり、常連の出演アーティストに演出の提案をしてみたりしました。

音作りや演出、仕事は充実したものでしたが…

B子さんはすぐにライブハウスでの勤務に慣れていき、夏が過ぎる頃には、関西エリアの本部長から「店長にならないか」と言われました。

有難い話でしたが、辞退しました。自分のバンドの練習の時間が、やはり、なかなか調整できないからです。

皆、それぞれの職場に慣れるのに精いっぱいだし、休日も合わず、やはり、会って、セッションする時間がなかなか取れなかったからです。

本部長は、「店長になれば、年金にも加入できるよ」と言いました。

その時、初めて、B子さんは自分が、厚生年金に入らせてもらっていないことを知りました。
その事を本部長によく確認すると、入社して三ヶ月は試用期間だから、7月までは、業務委託だったんだ、と言います。

PAさんや照明さんも業務委託だから同じだよ、と言うのです。三ヶ月を過ぎてから、つまり、
「8月1日から正社員になってる」。

でも、年金や、住民税などは個人で払ってもらう、と言います。実はB子さんは給与は現金でもらっており、書類にいくら、とかいてあるだけで、内訳は書いてなかったのです。

現金
実はB子さんは給与は現金でもらっていたのです

突然のヘッドハンティング!新たなライブハウスが出来る!

B子さんは、このような事に疎く、良く分かりません。そこで、同じく新卒で入社した他のスタッフにグループLINEで聞いたところ、どういうわけか、まちまちで、調理師のスタッフは、給与明細に保険や、厚生年金、市民税などの欄があり、そこから天引きされているから、問題ないと思う、と言います。

ところが飲食運営のスタッフは、給与明細自体が無い、もらった事がない、と言います。銀行口座に入金されている金額しか分からない。明日、先輩に聞いてみる、と言います。

誰かに相談したくても、このような事に詳しい人をB子さんは知りません。

そして数週間が経った時、スマホに知らない番号から着信がありました。すると、その人物は、誰でも知っている、一部上場企業で大手カラオケチェーンの企業の人事部長を名乗る人でした。
実は、難波に大きなライブハウスを、近々、作る予定で準備を進めている。難波で有名なライブハウスを仕切っている若手スタッフがいると、ある人から聞いた。
うちに、是非、来てほしいので、一度、面談だけでもさせてもらえないか、ということでした。
B子さんはびっくりしましたが、なにより、新しいライブハウスが出来る、という事に、興味津々であるのと同時に、今の、C社の福利厚生の事はどうなのか、誰かに聞いてみたかったので、面談だけなら、と、その方に言いました。

面談の日。難波では誰かが見ているかもしれないから、と、かなり離れた神戸市内のホテルのレストランでお会いしました。

突然のヘッドハンティング!B子さんは面談だけ、まずは受けてみることに

人事部長は、突然の非を詫びながら、良い人材をあらゆる方法で、現在、集めている、今回は自身でヘッドハンティングしている、と言い、それ以外にも、求人広告をたくさん出稿したり、スカウト会社に依頼したり、としている。人材は何より大事だ。と言っていました。

給与は現金、明細も無し、やっぱりブラック企業…

そこで、B子さんは、現在の、自分の給与の貰い方の状況を話しました。
封筒に現金でもらっていること。明細が不明瞭なこと。入社3か月まで業務委託だったこと。同僚3人がバラバラの雇用形態であること。保険や年金、住民税が天引きされているかどうか、良く分からないこと。初めて、人に相談する事ができました。

人事部長はびっくりしていました。
「それは申し訳ないが、いわゆるブラック企業としか言いようがない」と言います。

「恐らく、期末に調整して利益を見るためだろう。現金で出金しているのは何らかの不正をしている可能性が感じられる」
「うちは東証一部上場企業なので、コンプライアンス委員会があり、そのような事は絶対にしない」
と言いました。
そして、そのあと、カラオケチェーン店として100店舗以上を展開してきた企業が、次にライブハウス事業を立ち上げる理由や、B子さんへの期待、また、今回の求人広告を書面で提示してくれました。

書面を見て驚きました。基本給、残業代、住宅手当、など、どれを取っても、現在の給与とは比べものにならないのです。

「この書面にきちんと捺印し、互いに1部ずつ保管します」「これは『雇用契約書』と言います」

雇用契約書
雇用契約書には雇用の条件が細かく記入されています

そんな書類はC社にはありませんでした。心は傾きました。
B子さんは最後にバンド活動を自由に出来る時間はあるかについて、確認しました。

「当然、うちから人気バンドが育成できればwin-winです。フレックスタイム制の勤務に加え、有給休暇の消化率は90%です」と、数字もはっきり提示してくれました。

その上、「現在、大手プロダクション、レコード会社と組んで、ライブハウスから若手アーティストを育成していきますし、また、中堅バンドにも既に定期的に出演してもらう契約が進んでいます。例えばバンドX、バンドZなどです」と言うのです。

B子さんは「え!」と思わず声を上げました。バンドXは、B子さんが高校生の時に夢中になった、あのバンドです。
「まさか、一緒に仕事が出来る??」

この話で一気にB子さんの心は決まりました。

「退職しよう…。C社を退職して新しいライブハウスを作るんだ…。バンドXとも仕事が出来るかもしれない…。退職するしかない!」

健康保険、厚生年金、市民県民税…一体どうなってるの?

退職を心に決め、現在勤務する会社の本部長に、退職の意向を話す為、時間をもらうことにしました。あのヘッドハンティングして来た人事部長に会ってから1週間後でした。

「すみません、誠に勝手ですが、これを受け取ってください」。あらかじめ書いた「退職願」を本部長に提出しました。

退職届
退職届を思い切って上司に提出したB子さん

本部長は急な事で驚いていました。「どうしたの?なんで?」

B子さんは思い切って言いました。

「健康保険とか、厚生年金とか、市民税とか、どうなっていますか?良く分からないんですが、重要なことだと思います。あと、入社3か月は業務委託だったというのも、おかしいと思いますし、現金で給与を頂いていますが、明細書もないので、内訳も分からないんで、困っています」

本部長は、驚いた顔で、

「へえ~、そんな細かい事、気にするんだ。珍しい人やね」と言いました。

「今まで、あんまりそういう事言う感じの人はうちに来なかったんだよね。だって、好きな音楽を仕事に出来るって最高じゃない?それで良くない?」

これにはB子さんも、言葉を失いました。

「はい、もちろん、そう思ってました。でも、年金とか、本部長は不安じゃないんですか?」

すると、なんと、本部長は、意外な返答を返しました。
「いや、俺はさすがにちゃんとしてもらってるよ」

「え??」

「いや、もう歳だから、俺くらいの年齢になったら、ちゃんとしてもらってる。B子さんまだ22歳でしょ?まだ気にしないで良くない?」「確かにまだ年金って言われてもピンと来ないですけど…」「でしょ?それよりそういうの天引きされないで、現金でもらったほうが良くない?」「でも、それって法律的には大丈夫なんですか?」「まあ、そこはイケるよ、イケる」「イケるって…、どういう事ですか…」「上手い事できんねん、心配せんでええよ、まあもし、何かあっても会社の責任やから。B子さんのせいにはならんから。大概、見つからんし、イケるから」

この本部長の説明を聞いて、改めてB子さんは言いました。

「すみません、今まで有難うございました。退職させてください。そしてこれまでの未納分の健康保険料や厚生年金料、住民税も、天引きして清算して辞めさせて下さい」

「え~。B子さん、そんなん言わんとってよ、うちの大事なスタッフやねんから。退職せんとって!頼むわ」

そして本部長は拝むように手を合わせて言うのです。「B子さん!退職は勘弁やで」

B子さんの意志は固く、もう、曲げる事はありません。すぐにでも、清算して辞め、次の職場に移るつもりです。B子さんは、果たして、きちんと、これまでの未納分の税金を清算して、退職する事が出来るでしょうか…。

編集部より

会社員として勤務している以上、企業は社員に社会保険や厚生年金を支払う義務が生じます。

過去、数十年前は、従業員何名以下の会社や事業所は厚生年金に加入しなくても良い、というケースもありましたが、法令が変わり、現在は、社長1名の企業であっても、法人である以上は、厚生年金に加入することが義務付けられています。

また、法人化していなくても、従業員が5名以上の個人経営の事業所も適応対象になります。
また、市民税・県民税(個人住民税)も、通常、会社が天引きしなくてはいけません。納付期限を過ぎてしまったものは、徴収してもらえないこともあるのです。

B子さんの会社は、人によって、これをしたりしなかったりしています。

これは問題です。しかも会社としてそれを問題視していないようです。このような場合は、「退職代行」を使い、キッチリと清算して、早く、次の夢に向かって進むべきでしょう。